エスコンフィールド騒動異聞

公認野球規則の条文など普段は一顧だにされないが、今脚光を浴びているのはその2.01条の第5文、「本塁からバックストップまでの距離(中略)は、60フィート(18.288メートル)以上を必要とする。」である。英文と違うというのでひと騒動の種になっているところだ。

ちなみに英語の正文は、”It is recommended that the distance from home base to the backstop, and from the base lines to the nearest fence, stand or other obstruction on foul territory shall be 60 feet or more.”である。”recommend”はいうまでもなく「推奨する」以上の意味はない。念のため手持ちの英英辞書であるCOLLINS COBUILDで確認したが、それを覆すだけの用例はなかった。ちょっと英語を生半可にかじった向きであれば”shall”に強い意志を読むかもしれないが、that節の主語は”distance”だから意志にはなり得ない。これは立法に使われるshallであって、もともとは神の命令からの応用形である。だから「~とする。」くらいの意味である。最近の文法書には書いてない(てゆーか、アメリカ英語ではほとんどshallは駆逐されているしね。)けれども、最近復刻された古い文法書である山崎貞著「新自修英文典」にちゃんと載っている。

そういう意味で公認野球規則の英文と日本文を読み比べてみると、誤訳と言って大げさなら、英語の語感を無視しているのではないかと思えるところが見受けられるのである。少なくとも、ルールとしてはいかがなものかといわざるを得ない。日本語の公認野球規則をいつ誰が翻訳したのかは知らないが、ちゃんと英語のできる人が訳し直したほうがよいのではないかと思う。少なくとも、正当性に疑義があるのはむしろ日本語版の公認野球規則のほうだ。

そもそも論として、いちおうワールドスポーツなのだから(野球が本当にそうかは若干の疑義があるが)、細かいところに至るまでルールが違ってはいけないのである。実際、公認野球規則でもドメスティックルールを適用する場合にはちゃんと書いてある。日本は日本のルールがあるというのでは北朝鮮と変わらない。日本語版の公認野球規則に正当性を見いだすならば、ちゃんとした立法事実が必要なのである。

だから、公認野球規則に適合しないと言ってファイターズを叩いている向きは、私に言わせればルールのなんたるかを知らないというか、少々頭が弱いのではないかと思う。もちろん、ファイターズサイドも擁護できない。公認野球規則の確認を怠ったという責めは負わねばならないし、本来これは十分に根回しして行うべきことだ。だから、どっちもどっち、落とし所を見つけようねという話以上でも以下でもない。

ちなみに、公認野球規則を訳した人は、何でもかんでもネバナラヌ規定でなければならないと思ったのかもしれない。2.05条でも「ホームクラブは(中略)必要である」となっているが、正文は”The home Club shall ~”である。ここのshallも立法のshallと解すべきだろう。まあ、英語で大学入試をしくじった人間にミスを指摘されるようじゃ、世話ないよ。

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1件のコメント

  1. 私は”recommend”を「必要とする」と翻訳ミスしているところで先を読む気も起こらなかったので、追求しておられる管理人さんお疲れ様。これは起こるべくして起こったことで、ハッキリ言ってしまうと翻訳者のランクがひじょうに低いんです。ともすると中高時代にちょっとだけ英語の成績が良かったレベルの主婦が、育児を終わってやることがないから、翻訳のバイトでもしよっかというような翻訳初心者級の人が低い賃金で適当にやっているのです。ハイレベルのプロの翻訳者は、単価が低いスポーツ分野は扱いません。難易度も単価も高い、特許・医学・薬学、その次に法律・契約・金融・IT。ハイレベルの翻訳者が扱うのはここぐらいまでです。スポーツの翻訳者は、翻訳業界のことに無知で、エージェントにマージンをぼったくられている可能性もあるので、翻訳者のレベルが相当低くなるのは必然だと認識しておくほうがよいでしょう。

    ちなみに通訳は、エージェントにより多少違ってきますけど、半日縛りで・・・
    Sランク:8万円、Aランク7万円、Bランク5万5千円、Cランク3万5千円。1日縛りだと倍になります。
    大統領と天皇もしくは首相の会談・特許・医学・薬学を扱う通訳プロの一部がSランクで、プロ野球の通訳はランク外でCランクにも入りません。球団専属で固定給かもしれなせんが、多少通訳ミスがあっても、重箱の隅を突くのは可哀想なぐらいのギャラしか貰えません。だからといって、通訳ミスをしていいわけではありませんが、通訳のプロとは言い難いレベルの人に目くじらを立てるのは疲れるだけです。

    プロ野球コアのファンにとっては、しっかり翻訳しろよ!と言いたくなる日ハム新球場の案件でしょうけど、残念ながら資本主義経済のシステム上、スポーツの立ち位置や重要度は高くないという判断が下されているのだと思います。

    以前、セイバーメトリクスの件でも記したように、スポーツの論文査読は科学者ではない人がジャッジします。スポーツをどんなに科学的に分析しようが、プロの科学者が扱うレベルではないと判断が下されています。社会の中でスポーツの立ち位置は、しょせんその程度なんです。ミスの言い訳にはならないけれど・・・

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