THE ONE AND ONLY

英米文化と日本文化はまったく違うのだから、すべての言葉に適切な1対1の訳が出来るというのは誤りである。その典型的な例は”identity”だが、これもなんか意味が曖昧なままにそのまま日本語化してしまった。それはそれでよいのだが、困るのは意味が変わってしまうことである。例えば”unique”。日本語ではちょっと変わったくらいの意味だろうが、英語の正解は「唯一無二の」である。昔京大英語のただでさえ哲学的な英文の出だしで”Solar system is not unique.”というのがあって、これはもう書き出しで躓いたら採点対象外にしようとする趣旨ではないかと邪推している。

その”unique”と同義か、それより強い言葉だと思われるのに標題の”the one and only”がある。これもなかなか訳しづらい。この言葉を知ったのは小林信彦翁が著書「日本の喜劇人」でエノケンをこう評したことからだ。確かに限定語句の見本市のような言葉だから、「唯一無二の」より強い意味と解して良いのだろう。私はエノケンさんは見たことがない(いくつかの映画はデジタル化されているのだが)から、評価することは出来ないが、「日本の喜劇人」で読む限り、なかなかその代わりが出来る人ではないということは、分かる。

そんなことを思ったのも、歳末になって音楽をたくさん聴くようになって、日本の歌い手にそういう人がいるかなと思ったからだ。歌い手と言っても分野が違うと比較は難しい、例えば三波春夫と佐藤しのぶの比較なんてナンセンスだから、ジャンルごとに考えるとしても、そうそうあるものではない。で、昼に書いた話に戻るのだが、菅原洋一という人はかなりそれに近いと思う。流行歌手と言うよりは洋楽を大衆化した功績の方が大きいのだが、菅原洋一翁のおかげで知った曲というのも多い。

菅原翁の場合、何がすごいかといって、御年九十でまだまだレコーディングを精力的にされている。八十代で吹き込んだ歌曲集がApple Musicにあるのだが、今の盛りの歌手が尻尾を巻いて逃げるほどの透き通った歌声だ。声を出してがなるだけが能ではないということを教えてくれる。もちろん全盛期の歌声は、まさしくuniqueだった。まさに加古川が生んだ至宝のひとりである。

そのほかのジャンルで言えば、流行歌部門では五木ひろしが近いだろうか。もう75になるが、いまだに若い頃と同じキー同じテンポ同じ歌唱法を保っているのがすごい。これが出来る人はそうそういない。細川たかしくらい鍛えている人でも今は同じキーでは歌えていないから、他の歌手は推して知るべしだ。最近の男性ヴォーカリストはやたら高いキーで歌いたがるが、二十年後にどうかというところが私は興味がある。Official髭男dismとかどうなるかな。

そういえば、私がその歌をいたく愛したやしきたかじんは、1996年頃まではよかった。そこまでなら非常にuniqueな歌手だったのだが、残念ながら歌に対する情熱が落ちてしまったのか、晩年はまるで駄目だった。「その時の空」という彼のラストオリジナルシングルがあるのだが、それにカップリングされている「やっぱ好きやねん」「大阪恋物語」のニュー・ヴァージョンは、敢えて言いきるなら聞くに堪えない。

しかし、最近の歌手は、私に言わせれば全然駄目だ。再生回数何億回といったって、正直レコードやCDの売り上げとパラレルに考えられるのかという気がするし、そりゃお手軽に受容できる以上回数は増えるよねというところだ。それと、歌に対する魂というか、熱情というか、そういうものが感じられない、言い方は悪いがMasturbationのような歌が増えているように思う。昨年のレコ大や紅白を見て、強く感じたところである。

それでも生歌を歌うだけまだましで、テレビカメラが回っているステージの上で平気で口パクを使う歌手もどきの跋扈にはうんざりする。はっきり名指しするなら旧ジャニタレと秋元グループ。ばれないとでも思ってるのかね。それに比べれば昔は聞くに堪えないくらい下手くそだった田原俊彦や近藤真彦もちゃんと生で歌ってたんだけどね。まあ、何度も書いていることだけれども。

でも、もはや現代では”one and only”のような存在は流行らないのだろう。それが時代というものかというとなんだけれども、事実なんだから仕方がない。要するに、いつぞやもネタにしたが「ホンモノの味」をみんな理解できなくなったんだろうな。いや、なにか「ホンモノ」を理解することが誤りであるかのような衆愚主義的風潮が蔓延っていると言いたいところだ。

だから、カープなんて「ホンモノ」のプロフェッショナルがいなくても、誰も何も言わないんだろうな。昔は違ったといっても、詮無いことだ。いや、絶対的な”THE ONE AND ONLY”がある。悪徳経営者松田元。古今の経営者を通じても、これだけ酷い「代表取締役社長」は存在しない。まさに”unique”だ。マイナスの意味での。

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コメント

“THE ONE AND ONLY” への2件のフィードバック

  1. Иван Ивановичのアバター
    Иван Иванович

    確かにアイデンティティって、今ひとつ掴み所のない単語で、格好付けて使うもんじゃないと感じている。それより、遺伝子検査で病気のリスクや祖先のルーツを明確にするほうが余程合理的だと思う。

    ロシア民謡(音楽)は、感性が日本人に近いような気もするが、すんなり心に入ってくるのは、遺伝的な要素が大きいかもしれない。
    ザ・ピーナッツが歌った「恋のバカンス(作詞・岩谷時子、作曲,編曲・宮川泰)」は、ロシアの国民曲というほど愛されている”Каникулы любви”の原曲なんだよね。日本人の作った曲が、ロシアで世代を超えたヒット曲になるのは予想外やね。

    逆に、Полюшко-поле(ポーリュシカ・ポーレ )、тройка troika(トロイカ)、Калинка(カリンカ)、Очи чёрные(黒い瞳)、Неделька(一週間)、Катюша(カチューシャ)のロシア民謡は、音楽の授業やCMソングで馴染みのある曲ばっかりでは?自分が勝手に思い込んでいるだけかなぁ?

    他、ポール・マッカートニー初プロデュースでヒット曲の、メリー・ホプキンの悲しき天使(Those Were The Days)の原曲は、Дорогой длинною(長い道を)なので、世界的にロシア民謡強し、か。この英語版”Those Were The Days”は、人生2番目に覚えた外来語の唄で、倫敦の小学校に転校した時、地元の生徒に近づく手段として歌った思い出深い曲。歌詞ではtavern(居酒屋)で飲み明かした昔を振り返る人物の感慨深げな心境が描かれている。オイオイ子どもが歌うような曲かぁ?・・・と反感を買うようなギリギリを攻めた危険なジョークを孕んでおり、一か八かの賭けだった。受けなかったら一発レッドカードやった。

    ロシアといえば、チャイコフスキーやラフマニノフといった著名な音楽家がいるけれど、どっちかといえば、マイナー調で暗めの曲が多い。また、ドストエフスキー、トルストイ、ツルゲーネフ、チェーホフ等暗い作風の作家ばっかり(笑)。コイツらのせいで?ロシア人は暗くて陰湿なイメージが付いてしまったけれど、レズギンカ、ヨホール、コサック等の踊りが盛んで、お祝い事があれば近隣住民が出てきてロシア民謡踊り祭り。意外と脳天気な人が多い。

    人種や雰囲気で国民性を決めつけてしまう傾向が強いけれど、実情は、人それぞれ。

    バカープファンは究極のワンパターンなので、簡単に言動が読めるけどね。思慮深さが感じられない軽薄な者とは100万㎞の距離を置きたい。

  2. アングリーレッドのアバター
    アングリーレッド

    やしきたかじんさん。
    私は劇場版ガンダムのエンディング曲、「砂の十字架」が好きでしたね~(歳がモロバレ?)
    本人的には黒歴史だそうですが(笑)

    今日は會澤翼が1億1千万円で契約更改したとの記事が。引退すべき選手に1億もの大金を払ったら、必要なところにお金が回らないのも当然か(涙)
    ヤフコメではおなじみの、ハジメの指示で會澤をこれでもかと持ち上げる提灯コメントのオンパレードで、私はすぐに気分が悪くなり閲覧を止めました。

    他の選手もおもしろいはずが無く、今後もこんなハジメの横暴が続く限り、数少ないカープの有能な選手・指導者の流出は止まらないか・・・

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