野球実況のレベル低下はなぜ起こる?テレビとラジオの違いから読み解くアナウンサー論

おもひで

夏の甲子園や日々のプロ野球中継を観ていて、「最近の実況はなんだか騒がしいだけで、言葉の深みがない」と感じたことはないだろうか。画面に映る事象をただ叫ぶだけの実況が増えた背景には、アナウンサーの「言葉選びの貧困」だけでなく、本来まったく異なるはずの「テレビ実況」と「ラジオ実況」の役割の混同がある

本記事では、往年の名アナウンサーたちが誇っていた圧巻の語り口を振り返りつつ、キー局・地方局における実況の現在地と、本来あるべきスポーツ実況の姿について深掘り・考察する。

私事ながら今日まで夏休みで、ぼんやりと夏の甲子園を観ていた。特定のどこを応援するでもなく眺めていると、どうしても思い出す実況がある。

関西育ちの私にとって、そしてこの時期だからこそ思い起こされるのは、ABCの植草貞夫翁による叙事的な名調子と、その対極にあった故・安部憲幸翁の叙情的な語りだ。昔から高校野球中継やプロ野球の「裏送り」などで修業の場に事欠かないためか、ABCやMBSの実況レベルは群を抜いて高い。

 なぜ現代の野球実況は「絶叫」ばかりで耳につくのか

一方で、NHKを含む全国キー局の実況アナウンサーのレベル低下は著しい。ひとことで言えば、単に「けたたましい」のだ。感情を顕わにすればいいと錯覚しているのか、紋切り型の絶叫ばかりが耳につく。そこにあるのはボキャブラリィの貧困だ。目の前で起きた事象をただ叫ぶだけなら、一定の反射神経さえあれば誰にでもできる。

 テレビとラジオで求められる「実況の役割」の違い

そもそも、テレビ実況とラジオ実況では求められる役割が根本的に異なる。

  • テレビ実況:映像が見えているため状況の細かい描写は不要。代わりに、映像が紡ぎ出す迫力を引き立てる「言葉選び」が求められる。
  • ラジオ実況:聴き始めたばかりの人にも状況が即座に浮かぶよう、一から場面を描写しなければならない。

この決定的な違いを弁えていないアナウンサーが、あまりにも多すぎる。

 キー局・地方局に見る野球実況の「現在地」

最近は地上波全国ネットのプロ野球中継が減り、地方キー局の実況に接する機会が増えた。それを見ても、やはりABCのアナウンサーは卓越している。東京キー局で辛うじて安心して聴けるのはTBSだろうか。日本テレビはかつてスポーツに力を入れており、古典的テレビ向け実況の鏡であった小川光明翁らがいた時代は素晴らしかったが、今は怪しい。

フジテレビはそこそこ安定している(青嶋達也アナがプロ野球を担当しなかったから……というのは冗談だが)。対照的にテレビ朝日は壊滅的だ。スポーツを冒涜しているのかと疑うような実況を平気で流してくる。ラジオ専門局の矜恃か、ニッポン放送と文化放送は大体聴けるものの、山田透アナ加入以降のニッポン放送にはやや疑問符がつく。

 広島の放送局に見る「実況力の崩壊」

視点を広島に移すと、現状はさらに厳しい。テレビ専門局は人材不足に加え、修業の場がないため悲惨である。だからこそ、先日の「代走羽月」事件のような事態が起こるのだ。唯一のラテ兼業局であるRCCも致命的で、「テレビとラジオの仕事の違い」を理解していないため、テレビでは情報過多、ラジオでは状況がさっぱり分からないという本末転倒が起きている。

かつてのRCCには、上野隆紘、鈴木信宏、川島宏治、深山計といった名実況の系譜が連綿と受け継がれていた。カープ応援局でありながら、言うべきことは言い、駄目なものは駄目と指摘できる矜恃があった。

それを崩壊させたのが坂上俊次アナだ。彼の下らぬ蘊蓄ばかりの実況ごっこに付き合わされる方はたまったものではない。現在RCCで安心して聴けるのは、役降りで現場に戻った長谷川努アナと一柳伸行アナくらいである。彼らはかつての上質な系譜の末端にいるため相応に喋れる。昔はキンキン声が耳についたものだが、坂上アナやそれに連なる石橋真、石田充、伊東平各アナに比べれば遥かにマシだ。「昔は良かった」と懐古したいわけではないが、これが紛れもない事実なのだから仕方がない。

 語り継ぎたい「昭和・平成の名アナウンサー列伝」

最後に、私が感銘を受けたスポーツアナウンサーの系譜を振り返っておきたい。

やはりABCの植草、安部両御大は別格である。その系譜を引く武周雄、太田元治両アナも素晴らしかった。世代が下がっても楠淳生、伊藤史隆両アナは安定感抜群で、特に役降り後の伊藤アナの語りは名人芸の域だった。

 解説者なしの一人二役!RFラジオ日本・島碩弥アナの伝説

そして、絶対に外せないのがRFラジオ日本の島碩弥アナだ。ジャイアンツ専業局ゆえ、かつて横浜スタジアムや神宮球場の巨人戦に入れなかった時代、広島市民球場でのカープ戦を中継していた。何が凄いと言って、解説者なしの「一人二役」実況である。その圧倒的なボキャブラリィと博覧強記ぶりは、今なお語り継がれるべき伝説と言えるだろう。

画面の向こうやラジオのスピーカーから流れる言葉ひとつで、試合の情景が色鮮やかに立ち上がり、観る者の心を揺さぶる――そんな本物の「実況の醍醐味」を、現代のグラウンドにも再び期待したいものである。

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