昨日は、朝日放送の歳末吉例「M-1グランプリ」が行われたようである。「ようである」としか書けないのは、まったく見ていないからだ。だから優勝した令和ロマンがどうたらとか決勝に残ったメンバーがどうたらとかいうことは、書くことができない。だから評価することはもちろん、くさすことも出来ない。そもそも決勝に残った面子もネタを見たことがないどころか名前を知らないのもいるから、語りようがないのだ。
かつては違った。私もいい加減演芸が好きだから、あるところまで熱心に見ていた。優勝した面子にはそれ相応の説得力があったし、結構毎回新しい発見があった。南海キャンディーズとかスリムクラブはM-1で初めて知ったところだ。ところが、どうも最近、いやここ十数年そうかもしれないが、何か見ようとする気も起きないし、M-1から飛び出した漫才さんで理屈抜きに面白いという人もいなくなった。
最近のM-1に出る漫才、いや最近の漫才の傾向として、コントとの垣根がなくなったという点が挙げられるだろうが、私はその点は何も思っていない。コントに近かろうがしゃべくりだろうが面白かったら漫才として成立すると思う。しかし、最近の漫才をたまにテレビで仄聞しても、はっきり言って笑えないのだ。面白くないというより、自分の感性と合わなくなったのだろうと思っている。いや、何か笑いのベクトルが違ってきているのかもしれない。
漫才でいうなら、いとこい先生ややすきよ師匠のころとは、明らかに変わっている。その頃の漫才、いや演芸全般そうだが、とにかく理屈抜きに、そんなお客さんでも笑わせてみせるという気概があったような気がする。それはいわゆる「漫才ブーム」世代もそうだ。中座や花月の厳しいお客さんの試練を経た味というものがあったというべきなのだろうか。
もうほとんど鬼籍に入ってしまったが、横山ホットブラザーズなどその典型かもしれない。とにかく理屈抜きで笑わせる技術は天下一品だった。時代が平成になった頃だったか、東京の番組に呼ばれて、ホットブラザーズなんか見たこともないお客さんが、横山アキラ師匠の「顔芸」ひとつでどっかんどっかん笑うのである。笑いってこんなもんだろうと勝手に思っていた。
ところが、最近の笑いはなんか違う。つらつら思うに、お客さんの質の変化があるのかもしれない。それこそ昔の大阪の小屋のお客さんはさあ笑かしてみい、面白くなかったら笑うてやらんぞと構えていたような気がするが、今は何か出て来て少しくすぐっただけで大笑いしている趣がある。そこには、笑わないとまわりから遅れてしまうという強迫観念があるが如くである。だから、笑いを作り込むというよりは、有り体なくすぐりや楽屋落ちに終始する、のかもしれない。
ひとことで言うと、笑いの基準というのが、自分で見て面白いかどうかというより、どれだけまわりが評価しているかというところにあるのではないか。笑いに権威を求めているといえばいいのか。一方で、芸人さんの方もお客を笑わせることではなくて、誰か権威のある人に評価してもらうことによって世に出て糊口を凌愚ことばかり考えてるような気がしてならないのだ。そして、そんなサークルの中心にいたひとりが、松本人志であるというのが私の仮説である。
以前書いたとおり、私は今の松本人志は芸人としてまったく評価していない。理由は、面白くないからである。漫才やっていた頃は違ったが、今はまったくダメ。そんなのが王様然としていたらまわりにも悪影響を及ぼすと思っていたが、当然自分を抜くような才能を評価するわけがない。いきおい、劣化型松本人志が再生産されるだけになるのだろう。そりゃくすりとも笑えない漫才が増えるよね。
まあ、漫才という芸能は良くも悪しくも「時代と寝る」側面があることは確かだ。今の漫才はある意味今という時代の映し鏡なのかもしれないが、このままではやがて漫才という芸能は滅んでしまうかもしれない。刹那的なものがあるからこそ精一杯作り込んでほしいと思うのは無い物ねだりなのか。なんか残念だ。
現在漫才の元祖といっていいエンタツ・アチャコ先生は、作家の秋田實とともに安心して笑える笑い、無邪気な笑いを目指したという。そしてそれはほんの少し前まで漫才のベースになっていた。そういう意味では漫才にだって古典たり得る普遍性の側面があるといっていい。約50年前の海原千里=上沼恵美子のしゃべくりのスピード感と切れは今の漫才師を凌駕する側面がある。いや、その頃のいとこい先生の漫才を見たら、最晩年のいとこい漫才しか見たことのない向きは驚くだろう、初代Wヤングの音楽的といっていい(そもそも西川ヒノデショウの門下だ)テンポも然り。今の漫才さん、見習えとはいわないが、少し換骨奪胎してみたら、もっと面白くなるかもしれないなあと、思ってもみるのだが、やはり無い物ねだりなのだろうか。
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