昨日は、高校の部活の同窓会で姫路に出ていた。久しぶりに広島から鈍行を乗り継いで姫路に向かったのである。もちろんすべて電車なのであって、汽車旅というのは本来おこがましいのだが、なんか旅をしたなという感じがした。帰りは諸般の都合で新幹線を使ったのであるが、あれはあくまで移動手段であって「旅」とは言えないのかもしれない。
そんな「旅」の最中は、あるいは宿でぼんやりしている間は、やはり憂き世からは離れて脳みそがクリアになっているような気がする。もちろん本業のくだらない雑務はきれいさっぱり頭からなくなるし、そもそも旅先でまでこんな雑文を物する気にもなれない。いわば非常に正常な思考回路になっているのだろう。もっとも、だからといってそんなときにまともな文章が書けるかというのはまた別問題なのであるが。思考回路の正常さは吐き出された文章の品格とはリンクしないのである。
まあ、私の場合はそんなときに何かものを考えることなど出来よう訳もなく、ぼんやりと断片的にいろんな事が頭の中に去来するに過ぎない。それでも今日は連休の中日、たいして書くこともなく、雑ネタをぶち込むには適当かと思うので、そうすることとする。
さて、2日に私は昭和を彩った音楽のTALENTが旅立ったのと引き換えに、残された者どもの音楽が貧相になっていっていると書いた。これは伊達や酔狂で書いたのではなく、全くの本音だ。特に令和になる前当たりからその傾向顕著である。蓋しそれはボーカロイドに歌手が影響を受け始めたせいではないか。いや、はっきり言ってボカロの真似をしている。そしてそのせいで、日本のミュージックシーンの衰退に拍車がかかっていると思う。
それでも一人くらいボカロのテクニックを人間の歌手が歌うようにうまく取り込んで聞かせる歌手が出てくるのではないかと思っていた。しかし、今のところ誰もそれに成功していない。幾田りらくらいかな。それでも彼女の歌声には表情がない。だからテクニック的には優れていてもいい点は付けられない。Adoはボカロの影響を強く受けてるのが丸わかりだが、歌としては全然駄目。特に昨年の「唱」なんてがなっているだけで聞くに堪えない。
でも、これにもやっぱり伏線があって、その源流と言うべきなのは「カラオケで挑戦しがいのあるテクニックがちりばめられている歌」が尊ばれるようになったことと推測している。その典型は広瀬香美の「ロマンスの神様」や「幸せをつかみたい」だ。でも彼女の歌にはまだ情感があった。今は本当に、高度な技巧が使えればよしという風潮になって、感情とか表情とか陰影という言葉が過去帳入りになってしまった。だからつまらないのではないか。
だから、粗製濫造される歌は歌詞も曲も雑でただ難しげに歌うことが聞かせどころに成り下がってしまっている。私も昨年末にテレビでいろんな歌に接したが、心に刺さる歌詞、刺さるメロディというのは絶無に近い。一番心動かされたのは「オトナブルー」だが、あれはよく聞いたらまるっきり昭和歌謡テイストだ。ラストの歌詞「おーいかけておーいかけて」は吉幾三の「雪国」(譜割りは違うけどね)、「ブルー」で終わるのは渡辺真知子の「ブルー」を彷彿とさせる(影響を受けているのかどうかは寡聞にして知らない)。
最近の歌手で、いい歌を作るなというのは、もはやあいみょんくらいしかいなくなっている。彼女は本当に太い歌詞を書くし、メロディーもよい。特にあれだけ刺さる歌詞が書ける人は、そうはいない。秋元康という人は嵌まれば非常にいい詩を書くのだが、そうでないときはそれなりでしかないし、近年その確率が低くなっている気がする。
そういえばあいみょんと言えば、歌い方が実に素直だ。クラシック畑のトレーニングを受けているわけではないようだが、非常に聞いてて耳に心地よいのだ。なかなか最近はそういう歌手が少ない。MISIAなどいい声を持っているのに、最近の歌い方は妙な癖があって、なんであんなにこねくり回さなきゃあかんの?といいたいくらいである。実にもったいない。
私は、音楽に関しては多分にピアノの講師をしていた亡き母の影響大である。かつても書いたが、松田聖子が出てきたときには二言目には「下手くそ」といっていたし(彼女だって平尾昌晃に師事していたのだが)、二十年くらい前だったか、五木ひろしでさえ「全然駄目になった」と言っていたくらいそもそも採点が辛かったのである。その影響を受けているから、本当に今のミュージックシーンは見てられないのだ。いや、今「ブギウギ」で再びスポットライトが当たっている淡谷のり子などは、さぞかし天上界で「こんなの歌じゃない」と仰っているに違いない。そりゃ東洋音楽学校(今の東京音大)声楽科を首席で卒業し、かつソプラノ歌手としてファルセットを完璧に叩き込まれているから仕方あるまいが。
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